雨はしとしと降っているうちは静かで穏やかな存在だが、雨脚が強くなると、雨そのものが街のノイズのように騒がしく感じることがある。
だけど雨が上がると、そのノイズまで一緒に消えていくのが不思議でしょうがない。
雨上がりには、ほんの少しだけ世界がやわらかな静けさに包まれる時間が訪れる。
そんな静かな時間に出会えたことは、僕にとって、とても贅沢な瞬間だ。
雨上がりの静かな時間に鴨川沿いを歩いていた。
雨がやんだばかりの午後で、まだ空は薄い雲に覆われていて、傘をさしている人もいたたけれど、街の輪郭がくっきりと浮かぶほどの透明感があった。
ふと立ち止まったのは、白くてふわふわとした花が咲いている場所だった。
その、ふわふわした花から、ほのかに甘くて優しい香りが漂っていて、吸い込むたびに心が「すーっ」と静まっていくような感覚。
周りの足音、車の音、人の気配。それほど遠くないはずなのに、心地よい音に聞こえてくる。
そんな中、傘に落ちる雫の音が、雨上がりの主役のように耳の奥で響いていた。
『香りと雨音』。
このふたつだけが、今、この瞬間を満たしていた。
そのふたつから感じる時間はとてもやさしく、何も語らず、ただそこにあるだけで心が温まる。
けっして時間が止まっていたわけじゃない。
でも、心だけがその場に留まり、焦らなくてもいいと思えた。
名前のない花。
一瞬の香り。
雫が奏でた音。
その全てが一つの記憶となって、今も心の奥に残っている。
静けさとは、音がないことじゃなくて、必要なものだけが静かに響いている状態のことかもしれない。
あなたにも、そんな音や香りに包まれた時間があっただろうか。
もし思い出せたなら、それもきっとあなたの中の「静かな余韻」なのだと思う。
『静かな余韻を楽しむ京の町 — When Rain Washes the City Clean —』
シネマティック写真家リョウ
◆Instagram | @ryo_creativephoto / ◆ブランドサイト | 雨の雫
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