見えないものを写真にうつす | 日常に隠された魅力的な世界

写真の本質は、単に目に見えるものをとらえるだけではなく、見えないものを表現する芸術的要素もある。特にアート写真の世界では、目の前に見える日常の世界だけではなく、心の奥底にある感情や記憶を呼び覚まして、人々の心を強く惹きつけることもできる。

僕は、そのような影や余白にストーリーを感じる写真を追求している写真家の1人である。

この記事では、日常の中にある「見えない魅力」を写真に写す価値や、見えない魅力について深掘りしていこうと思う。

今回の記事は、シネマティックな写真とは一味違う『アートな写真』について語っているが、シネマティックな写真については、こちらの記事が参考になるだろう。

見えないものを引き出す『影』とは

影は、ただ光が届かない場所にできる暗い部分と捉えがちだが、実はそこには多くのストーリーがある。

例えば、影の中に隠れているものや、光が当たっていない部分には、現実の物理的な輪郭以上に、被写体の持つ感情や奥行きが表れやすい。

京都の写真家リョウが撮影したモデルの写真

人間の心理においても、見えないものや曖昧なものには独特の感情が宿りやすく、写真においても影や暗闇に隠れることで、必要以上の想像力と独自性のある世界を生み出してくれる。

そんな影の力を引き出すためには、まず光と影のバランスを意識することが大切だ。もちろん、単に暗く撮るだけでなく、どこに光を当て、どこを見せないように撮るか。その選択によって、見る人の感情を左右する。

強い光があれば影が深まり、柔らかな光が漂うシーンでは柔らかで優しい印象になる。この微妙なコントロールによって、影が単なる暗い部分ではなく、物語を宿した存在として浮かび上がってくるだろう。

影を使った物語の演出

影に潜む物語を表現するためには、何を「見せない」かを考える必要がある。多くの場合は、写真に写るものすべてが見えやすく明確であればあるほど、印象は平坦になりがちだ。そこで意識したいのが、影の中に隠れた要素を活用することだ。

例えば、被写体の一部を影で覆うことで、表情や輪郭の一部を曖昧にし、隠された部分に対する興味を引き出すことができる。その時に重要なのは、見える部分と見えない部分の「境界」をつくること。

京都の写真家リョウが撮影したモデルの写真

影の中にある見えない部分が何を意味しているのか、あるいはその先に何があるのかという想像をかきたてる要素が、影を使った写真の最大の魅力となる。

それに、影に紛れ込ませることで人や物の「本質」が現れやすくなることだってある。

例えば、誰かのシルエットが影に隠れることによって、表情以上にその人の性格や心の奥にある感情が引き出されることも多い。

背景と余白がもたらす「見えない空間」

影と同じように重要なのが、背景や余白がもたらす「見えない空間」の存在だ。多くの被写体は背景と切り離して考えられがちでだが、実はその背景にこそ、影と同じように物語が隠れている。

特にシンプルで無機質な背景に囲まれた被写体は、孤独や静寂を感じさせることが多く、余白が広がることで見る人に「何か足りない」という感覚を与える。この「足りなさ」が、見る人の心に余韻を残し、被写体の背後にある見えないものを想像させて、心を惹きつけるのである。

背景に広がる余白は、影と同じように写真の中で「空白」を表現する手法であり、見える部分以上に心を揺さぶることができる。

僕は定期的に、無機質な建物や、使われていない場所で撮影を行い、その場に漂う「何もない時間」を撮り歩くこともある。そこに人物や物が存在するだけで、その静寂と対比され、より鮮明な物語が生まれるだろう。

影に隠れた美しさの発見

影を活かしたアート写真の醍醐味は、明確に写る部分が少なくなることで、見る人の心に長期的に印象を残すことができるところにある。

人の顔が完全に影に沈んでいる写真を見て、その表情や情景から『何か』を感じ取れることも多く、それは曖昧さや明確な意図が伝わらなず完全に見えない部分になるが、そこから想像をかき立てて、心に深く刺さる魅力が生まれることも多々ある。

写真においては、影の使い方を工夫し、あえて視覚情報を減らし、見る人の想像力を引き出すことも重要で、特に、ほんのり暗めでどこか寂しさを感じさせる影の中に美しさを感じられた時、不思議と心が揺さぶられてしまう。

例えば、廃墟のように人がいない場所や、使われなくなった小物の影を写せば、過去の記憶や人々の過去のストーリーを想像させる写真を作ることができる。

大阪で撮った廃墟の写真

影の中に込められた写真家のメッセージ

最後に、影を使ったアート写真には、写真家の意図やメッセージが込められている。見えないもの、つまり影の中に隠された部分が、多くを語らずとも写真を通じて、写真家がその時感じた魅力あふれる瞬間を人々に伝える手段となっている。

例えば、「物事の表面にとらわれず、その奥にある見えないストーリーを感じとってほしい」といったメッセージを込めて伝えている。

もちろん、見えないものを感じとるというのは、まさに見る人に委ねられる行為になるが、写真のすべてを説明するのではなく、見えない世界に潜むストーリーを感じとってもらえれば、見る人と写真の間に新しい世界が生まれるだろう。

それは、一方通行の視覚芸術ではなく、見る側の心の動きとリンクさせて、新たな意味を生み出す豊かな交流の場になるだろう。

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