雨の日のポートレート撮影。定番の透明傘でシネマティックな写真に撮るコツ。
僕にとって雨の日のポートレート撮影は、シネマティックな写真が撮れるチャンスだと思っています。
なぜ雨の日がシネマティックに撮れるのかというと、雨の日は周りの環境が薄暗く憂鬱な感情が表現しやすいからです。
「せっかく楽しみにしていたモデルさんとの撮影なのに雨だと良い写真が撮れない」
なんて思っていませんか?
雨には雨にしか出せない表情があって、透明傘を使えばシネマティックな写真だけじゃなく、アートな写真を撮ることもできます。
雨の日のポートレートで、他の写真家さんと違った世界をアピールする方が、コアなファン(※1)を作ることができますよ。
※1、コアなファンとは、流行に左右されず「あなたが作ったものだから魅力がある」と思ってもらえる人。
目次
はじめに
僕は2020年から、本格的にアート×写真家としての活動を始めました。
10年間、趣味で一眼レフの撮影をしてきた僕にとっては、この2020年から始めたポートレート撮影は、とても価値のある経験でした。
まず2020年からの1年間は、デジタルアートの素材を集めるために風景や森や小物を撮影してきました。
その後、2021年〜2022年の1年で13名のフリーモデルの方と作品撮りをしてきました。
撮影をする時期によっては、月/2名〜3名のモデルの方を撮影させていただくこともあります。
こうして作品撮りやポートレート撮影をしていると、撮影当日に雨が降ることもありましたが、何度か雨の日の撮影を続けていると、雨の日だから撮れるシネマティックな写真があることに気がつきました。
そこで今回は、雨の日のポートレート撮影の魅力的を知ってもらうために「雨の日のポートレート撮影」にスポットを当てることにしました。
「雨の日の撮影は難しいから嫌いだ」
「カメラが濡れるのが心配で撮影に集中できない」
「前日まで晴れていたのに急に雨なんてどう撮ればいいのかわからない」
と言った人向けの記事になっていて、雨の日のポートレート撮影を克服することができます。
雨の日の撮影は集中できない
雨の日の撮影は、一眼レフが濡れて故障しないかが気になって、撮影に集中できないという人もいます。
それに撮影当日が雨だからといって、直前になってモデルさんにキャンセルの連絡をするのも失礼だし。
せっかくスケジュールを合わせてくれたのに、「できればキャンセルせずにポートレート撮影に集中できる方法があれば」と思う人も多いでしょう。
雨の日だからといって、直前キャンセルは信頼関係にもひびくので、できれば避けたいもの。
でも安心してください、雨の日のでもポートレート撮影に集中する方法、雨の日でもモデルさんの魅力をストレートに伝える方法があります。
その方法とは、撮る側(写真家)には屋根があってモデルさん側には雨の中で傘を差してもらえる場所でポートレート撮影をすればいいんです。
その方法についてはこちらの記事で詳しく解説しているので、ぜひ今回の記事と合わせて読んでください。
雨の日ポートレート撮影の定番は『透明傘』
雨の日ポートレート撮影で定番のアイテムといえば「透明傘」です。
透明傘が良いと言われるポイントは次の3つ。
- 透明傘は顔に影ができにくい
- 透明傘越しでモデルさんを撮る事ができる
- 雨粒のついた透明傘はシネマティックな写真になる
それでは1つずつ見ていきましょう。
透明傘は顔に影ができにくい
雨の日のポートレート撮影で透明傘を使うのは、顔に影ができにくいのが理由の1つ。
雨の日は、周りの環境が薄暗いといっても多少の光はあります。
後ほど、色付きの傘で撮影した写真も紹介しますが、色付きの傘だと顔に不自然な色の影ができてしまいます。
傘の色によっては、モデルさんの顔色が悪く見えることもあります。
だけど透明傘だと自然の光が傘越しでも入ってくるため、違和感がなく雨の日の写真を撮ることができます。
透明傘の持ち方
モデルさんに透明傘を持ってもらう場合、肩に中棒と言う部分を乗せてもらうと自然なポーズで撮ることができます。
透明傘を肩に乗せてもらう時のポイントは、カメラマンに対して『45°〜90°』くらい横に向いてもらうこと。
そうする事でモデルさんの綺麗な顎ラインを強調することもできるし、カメラ目線を気にせずに自然な表情を撮ることができます。
写真家に対して正面を向いてしまうと、透明傘の奥行き感が出にくくなったり、傘の形が神様の後ろの光みたいになってしまいます。
宣材写真や記念写真を撮る場合は、正面でカメラ目線でもいいかもしれません。
だけど映画のワンシーンのようにシネマティックな写真にするには、あえてカメラから目線や体を外す方が何かのドラマがあると想像してもらいやすくなります。
色付きの傘の場合
もし色付きの傘を使いたいなら、赤い傘がオススメです。赤は差し色になるので、写真にメリハリをつけることができてアートな写真になります。
ただし、赤い傘の場合は、顔に赤い影がつきやすくなるので、持ち方に工夫をする必要があります。
例えば、顔に傘の赤い影ができないようにモデルさんの顔前方から光が当たるようにしたり。
赤い傘の後方や真上から光が当たると、顔に赤い影が入ったり、レタッチするときに色補正がしにくくなります。
他には、赤い傘を高く上げて子供のように雨の中ではしゃぐような表現をしたり。
赤い傘を高く上げてもらうことで、真上からの光でも顔に赤い影ができるのを防ぐことができます。
このように、持ち方や光の当たり方を工夫すれば、赤い傘も雨の日の撮影には効果的に使えるアイテムと言えるでしょう。
ちなみに、下記の写真のようなモデルさんが持っていた紫系の傘でも撮ってみました。
写真を撮るときは先ほどの「傘の持ち方と光の当たり方」を意識すれば、このように紫の影がつかないようにすることはできます。
ただレタッチをする時に、色補正がとても難しくなってしまいます。
人物に合わせて露光量を明るくすると傘の色が飛んでしまうし、雨らしく全体を青よりにすると、傘の色がまだらになります。
この場合はLightroomでレタッチするより、細かく暗い部分を選択できる『Photoshop』でレタッチした方がいいでしょう。
透明傘越しでモデルさんを撮る事ができる
透明傘の良いところは傘越しにモデルさんを撮ることができるところ。
雨粒のついた透明傘越しにモデルさんを撮ることで、映画のワンシーンのようなシネマティックな写真になります。
透明傘越しで撮影する時のコツは2つ。
- モデルさんにピントを合わせて雨粒をぼかす
- 雨粒にピントを合わせてモデルさんをわざとぼかす
僕が憧れている写真家『ソール・ライター』の作品で、ガラス越しに雨降りの街で信号待ちをしている人をぼかして撮影している写真があります。
そう言ったイメージもあって透明傘越しに撮影することも多く、モデルさんのちょっとした表情がアートにもります。
余白を広く使った構図で撮ってみよう
雨の日のポートレート撮影に集中しすぎて同じような写真ばかりだと、モデルさんもどんどん疲れて集中力がなくなってしまいます。
そんな時は気分転換をするために、色々な構図で撮ってみてモデルさんと、
「この構図面白い!」
「こんな構図でも撮ってみましょう!」
と、モデルさんも一緒にポートレート撮影を楽めていると感じてもらうことも大切です。
僕がよく使う気分転換に撮る構図は、『ちょこん。の構図』です。
『ちょこん。の構図』はモデルさんのアイデア
『ちょこん。の構図』と言う名前は、暑い夏の日に大阪の中之島で撮影させてもらった時のモデルさんが放った一言から生まれた言葉です。
この日は8月ということもあって、炎天下の中で僕もモデルさんも暑さに耐えながらのポートレート撮影でした。
1時間の撮影を予定していたのですが、僕が暑さのあまり45分で終わらせたポートレート撮影。
さすがに暑すぎるため、高速道路の高架下の影がある場所へ移り、気分転換をするためにモデルさんと少し遊びのある構図で撮影をしていました。
その時に、僕がモデルさんを『ちょこん。』と小さく入れて、余白を広く使って撮影をしました。
その写真をモデルさんに見てもらうと「私、『ちょこん。の構図』も好きですよ」と喜んでもらえたので、その言葉を使わせてもらいました。
ユーモアのあるモデルさんだったので、僕的には楽しめましたが、真夏のポートレート撮影になってしまったことがとても申し訳ない気持ちです。
こちらの記事でも少し触れていますが、『ちょこん。の構図』は余白を広く使って被写体を3分の1の中に収める構図に似ています。
モデルさんをあえて小さめにして上下左右のどこかの余白を広めにとる構図で、ドラマチックにも見えるしアート写真のようにもなる不思議な構図です。
モデルさんをフレームの3分の1の部分に収めて、残りの3分の2の部分に思い切って余白をつくります。
ただし気をつけなければいけない事は、『ちょこん。の構図』を多用すると写真に自信がなさそうに見えてしまいます。
そしてモデルさんにも、
「あんまり面白くない写真ばかり、、、」
と思われてしまうかもしれないので、全体の1〜2割程度で、気分を変えるために撮影する程度に使いましょう。
雨の日の『ちょこん。の構図』の効果
『ちょこん。の構図』を効果的に使えるシチュエーションは、水で濡れたアスファルト、水溜りがある場所、底が浅い川などがあります。
そういった場所で撮る事で、リフレクト効果があってウユニ塩湖のような写真を撮ることができます。
ウユニ塩湖はボリビアにある、誰もが一度は行ってみたい場所。そんな幻想的な世界を、日本でもアイデア次第で撮ることができます。
画像引用元 : Pixabay
『ちょこん。の構図』は、ポートレート撮影をする場所によっては、50mmや85mmの単焦点レンズだと距離が足りなくて撮れない場合があります。
『ちょこん。の構図』を撮るときは望遠レンズか、できるだけ人が少ないタイミングを狙って、広い場所で撮ってみてください。
ストロボを使った撮影
雨の日のポートレート撮影は、晴れの日と違って太陽の光が雲に隠れてしまうため、午前中でも暗くなりやすいです。
そんな時に活躍するのが『クリップオンストロボ』。
モデルさんの背面に隠れるようにストロボを立ててクリップオンストロボで撮影すると、アートなシルエット写真を撮ることができます。
シルエットを撮る場合は、モデルさんの表情が見えなくても良いと僕は思っています。
なぜかと言うと、表情が見えない方が写真を見る人の想像力をさらに上げることができるからです。
[ ƒ/5・1/100・50 mm・ISO 640 ]
普通なら『ISO200』を基準にして、f値やシャッタースピードを調整しますが、今回は背景を薄暗くして全体に青っぽさを強調したかった為『ISO640』まで上げています。
そうすることで、『エモい写真』と言うよりアートな写真のようになるのではとイメージしながら撮りました。
このように、どんな写真になるのかをいろいろ試しながら、その時の環境やカメラの設定のバランスを覚えていきます。
ちなみに僕が使っているストロボは『Godox TT600』と言うストロボ。コスパも良くてGN(ガイドナンバー)60と明るめの光を発光できるストロボです。
傘なしで高架下でも撮影
雨の日のポートレート撮影では、定番の透明傘で撮ることが多くなると思いますが、近くにトンネルや高架下のように屋根のある場所も効果的です。
雨の日の高架下で普通に撮影すると、とても暗い写真になってしまいます。
意図があって暗くなることは良いのですが、意味もなく顔が見えないくらいに暗くなると失敗感が出てしまいます。だからと言って、ストロボを使うと不自然な光が入ってくる。
そんな時にはISOを1000以上まで上げることもあります。ISOを上げると画像にノイズが入ってしまいますが、それが古びたフィルム感のような効果になることもあります。
ISOを上げて撮る場合は、何度かその場で試しながら一番バランスの良い設定を見つけながら撮ることが重要です。
雨の日をシネマティックに撮る場合に意識していることは、憂鬱な感情を表現した写真にするために暗めにレタッチします。
露光量を少し下げて色温度を青よりにするだけでも、上のような憂鬱な感情を表現することができるんです。
光の玉ボケを利用してドラマチックに演出
そして最後はモデルさんの顔により気味で、背景にイルミネーションなどの光があれば『玉ぼけ』で撮るのも良いです。
こうすれば映画のワンシーンのように、ストーリー性のある写真になります。
いかがだったでしょうか。
雨の日のポートレートでは透明傘を使うのが定番で、透明の質感を利用して色々なアングルでの撮影ができます。
色付きの傘を使う場合は、顔に色の影が入らないように工夫して撮る必要がありますが、アングルの自由度も少なくなります。
雨の雫を上手に使えば、モデルさんもシネマティックな感情になりやすいのかもしれません。
雨の日の撮影は、カメラにとってリスクも高くなります。一眼レフのメンテナンスをマメにすることも、写真家にとって大切なことなんですね。
僕は雨の日の撮影が嫌いだった
僕はもともと雨の日のポートレート撮影は、あまり好きではありませんでした。
なぜかと言うと、傘をさしていてもカメラが雨に濡れてポートレート撮影に集中できず、両手の自由がなくなってしまうからなんです。
だけど、自分がコンセプトにしている『心が揺さぶられるストーリー性を感じる魅力的な写真』を撮るには、雨の日のポートレート写真も魅力的な写真です。
雨の日の写真は、周りが薄暗く憂鬱な表情に見えるし、傘についた雨粒がモデルさんの表情をさらにシネマティックやアートな写真にしてくれます。
無理に明るく撮らなくても、雨の日らしく憂鬱な感情を撮れば良いと思得るようになり、そこから雨の日のポートレート撮影が好きになりました。
雨の日ポートレートの注意点
雨の日のポートレート撮影では、モデルさんも写真家も傘をさして撮影をすることが多くなります。
その場合に注意しておかなければいけない事は、傘を広げている分普段よりもスペースを使うことです。
つまり、雨で濡れた傘が通行人に当たらないように気をつけなければいけないと言うことです。
たとえ雨の日の人通りが少ないと言っても、通行人の邪魔にならないように注意しなければいけません。
そして雨の日は周りは暗くなるため、場合によってはストロボが必要になるでしょう。
だからと言って、がっつりした照明機材でポートレート撮影をすると、道を通る人の迷惑になってしまいます。
雨の日のポートレート撮影では、傘や照明機器で通行人の邪魔にならないように注意する必要があります。
雨の日が好きになった理由
僕はアート×写真家の活動をするまでは、雨の日があまり好きではありませんでした。
雨の日になると気圧の変化で頭痛になったり、薄暗い景色で憂鬱な気持ちになったり「ずっと晴れの日が続けばいいのに」と思っていました。
でも写真家として活動を始めると、なぜかポートレート撮影の当日が雨の日になることが多かったんです。
最初は雨の日のポートレート撮影は、一眼レフのことを気にしながら撮影するため、ポートレートに集中できませんでした。
だけど仕上がった写真を見ていると、晴れの日より心が揺れ動かされていることに気がつきました。
光が入らない薄暗い雨の日の景色は、モデルさんの感情をさらにシネマティックに演出してくれる効果があったんです。
たとえば、僕がインスタグラムに投稿したこちらの写真のように。
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雨の日は、憂鬱な気持ちになってしまうことが多いのですが、実はネガティブな感情というのは人の心が揺さぶられるとても素晴らしい表現なんです。そこから雨の日の写真を撮り始めました。
不思議なのは雨の日の写真を撮ることが好きになってくると、いつの間にか憂鬱な感情を持たなくなりました。
もちろん、雨の日になると気圧の変化で頭痛になることはありますが、雨の音には心がリフレッシュする効果があることを知ってからは、雨の日の頭痛の回数が減りました。
こうして雨の日に人物を撮るだけじゃなく、雨の日に街や自然を撮り歩きをするようになり「僕がその時に感じた心が揺さぶられる瞬間を撮影した写真を届けよう」と思うようになりました。
一番身近に感じることができて、いつでも見てもらうことができる方法。それを考えた時、今の世の中に一番普及しているもの、それがスマートフォンでした。
スマートフォンの壁紙にすることで、雨の日の魅力を感じてもらうことができます。