「シネマティックな写真ってどう撮るの?」
「映画のワンシーンのような写真が撮りたい!」
一眼レフでもスマホカメラでも、心が惹きつけられる魅力的な写真を撮ることはできる。
例えば、映画のワンシーンを切り取ったような写真、それが『シネマティック写真』である。
一般的に『シネマティック』と聞くと、スマホのカメラ機能で『シネマティックモード』を思い浮かべるだろう。
被写体をくっきりさせて、背景に綺麗なぼかしエフェクトがかけられる撮影モード。
だけど本記で言う『シネマティック』とは、映画のワンシーンを切り取ったようなストーリー性を感じる写真のことである。
ストーリー性を感じる写真と言っても、人によって感じ方が違うので「これが正解!」と言うことはできないが、僕なりのシネマティック写真のイメージがある。
そのイメージを撮られる側と共有することで、シネマティック写真を撮ることができる。
では具体的に、シネマティック写真の撮り方について話していこう。
目次
シネマティック写真とは?
まずシネマティック写真がどのような写真かと言うと、映画のワンシーンを切り取ったような写真で、その写真を見て過去の情景や未来の情景が想像できる写真。
一般的には、カメラのシネマティックモードで撮影された写真のことを言うが、本記では「現在僕が撮っているシネマテック写真の話」ということをご理解いただきたい。
写真の質感、構図、フレーミング、明るさ、ぼかし具合、コントラスト、ノイズ調のバランスを考えて、物語を想像したくなる写真、それが僕の考える『シネマティック写真』である。
たとえば、何気ない日常の中にある心が惹きつけられた瞬間を写真に撮って、ほんのり暗くオールドフィルム調に加工した、下記のような写真。
上記の写真は、仕事の疲れをとるために自然を撮り歩いた時に僕が撮った写真。
人のいない山道を車で走っていると、道路脇に生えていた誰にも手入れされずに寂しそうに見えた枯れススキ。
まるで仕事で疲れた僕の心を表してくれているように見えたので、車を路肩に停めて撮った写真だ。
この写真を見ると、辺り一面に枯れススキが広がっているように見えるが、実は道路脇の防護ネットの中に家1軒分の広さの敷地に生えているせまい場所である。
構図とフレーミング、レンズのズームの組み合わせで、壮大な枯れススキの中にいるイメージを表現している。
何気ない場所なのに壮大な情景を想像させる写真。これも僕が撮影する『シネマティック写真』の特徴とも言える。
僕が撮るシネマティック写真は、ほんのり暗く余白が広い写真が多いんですけど、その「余白」にストーリーを感じるんです。
僕が「シネマティック写真」を撮るときに意識していることは次の3つ。
・映画フィルムのような質感(レタッチの時)
・写真を撮影した時の情景を伝える(公開するとき)
シネマティックな構図(撮影時)
僕がシネマティック写真を撮る時は、まず構図を意識していていて、とくに『三分割構図』を基準にシネマティック写真を撮っている。
『三分割構図』について詳しく解説している記事はこちら。
三分割構図を基準に写真を撮ると、写真に余白ができる。その余白から見えないストーリーを感じるのである。
例えば、左と右の余白の印象の違いを、下記の写真で見てみよう。
【右に余白をとった場合】
※写真撮影 : 写真家リョウ
右に余白を作ると、過去に対するストーリーが伝わりやすく、過去に経験したエピソードを踏まえてアピールする場合に効果がある。
【左に余白をとった場合】
※写真撮影 : 写真家リョウ
左に余白をとると、未来に対するストーリーが伝わりやすく、未来に向けた夢や目標を話す場合に効果がある。
このように、イメージしたストーリーに合わせて構図を決めると、より伝わる写真になる。
上記以外にもいろいろな構図がありますが、その話は後途の『構図のいろいろ』の項目でまとめているので、ぜひ読んでほしい。
映画フィルムのような質感(レタッチの時)
シネマティック写真を作る場合、写真を映画フィルムのような質感に加工することも多い。
もちろん、撮影時にカメラ側でシネマティックな質感になるように設定しているので、味付けとして画像編集ソフトで微調整している。
僕が使用している画像編集ソフトは、Adobe社の『Lightroom』や『Photoshop』、Skylum(スカイラム)社の『Luminar Neo』の3つである。
映画の質感にするポイントは、彩度を低くしてコントラストを弱めにすること。
彩度の差やコントラストに差が出てしまうと、綺麗で高画質な写真になりますが、長く見ていると目が疲れる印象がある。
わかりやすく言うと、テレビの画質設定の『ダイナミック』を思い浮かべてほしい。
テレビの画質設定のダイナミックは、色が鮮やかで映像が明るく綺麗に見えるが、長時間見ていると目が疲れてこないだろうか。
写真も同じで、彩度やコントラストを上げすぎると違和感が出て目が疲れてしまう。
長期的に見たくなる写真には、彩度やコントラストの差が低く、レトロで懐かしさを感じる質感にするのが好まれやすい印象がある。
写真を撮影した時の情景を伝える(公開するとき)
写真の見えないストーリーを伝えることも、写真の魅力を上げる大事なこと。
ただ写真を見てもらうだけでは、その写真のストーリーは伝わらない。
では写真のストーリーを伝えるにはどうすればいいのかと言うと、写真を撮影した時の感情やシチュエーションに関する思い出を添えることである。
それを伝えることで、自身が撮影した写真に興味をもってもらいやすくなる。人はストーリーがあるものに興味をもち共感する。
撮影した写真をただフォトギャラリーサイト(※1)やSNSに公開するだけではなく、撮影したときの気持ち、その時の状況、撮影した経緯などを添える方が見られやすいと言うことである。
(※1)ここで言う『フォトギャラリーサイト』とは、写真家として作品をアピールするためにもつ『ポートフォリオサイト』のこと。
写真家がフォトギャラリーサイト(ポートフォリオサイト)を持つメリットについては、下記の記事で解説している。
「構図」のいろいろ
では先ほど『シネマティックに感じる構図(撮影時)』の項目で話した、その他の構図についてもお話ししよう。
僕が写真を撮るときに意識していることは、できるだけ被写体(人物)をフレームの中央に配置しないこと。
写真のストーリー性を上げるために、左右上下のどこかに余白を入れて撮るようにしている。
写真撮影でよく使われる構図が、次の3つ。
・三分割構図
・日の丸構図
黄金比
『黄金比』は、最も安定的で美しいとされている比率で、その比率は『1:1.618』とされている。
下記のような図形を見たことはないだろうか?
被写体の一番見せたい部分を、フレームに対して渦のスタート地点(上の図では小さな正方形部分)に配置することで、バランスが良く、安定した綺麗なデザインになると言われている。
ただ黄金比の難しいところは、毎回この黄金比を計算してそれをフレームに当てはめにくいところ。
なので写真撮影をする場合は、次に解説する『三分割構図』がイメージしやすくてオススメだ。
三分割構図
黄金比に近い構図という意味では『三分割構図』というものがあり、写真家がよく使う効率的な構図である。
三分割構図は、フレームの縦横を三分割して、線と線が交わる点に被写体の見せたい部分を配置すると、バランスのいい写真になる。
下記に、とても単純でわかりやすくしたイラストを用意したので参考にどうぞ。
【縦横三分割した図】
上記の三分割した線を消すと、余白が生まれてスッキリした印象になるのがわかるはずだ。
【三分割した線を消した図】
この三分割構図を意識することで、最近よく聞く『エモい写真』や『アートな写真』を撮ることができる。
日の丸構図
次に、被写体をフレームの中央に配置した『日の丸構図』。
この『日の丸構図』は、フレームの中央に配置する構図で、記念写真、結婚式の前撮り写真、商品写真などでよく使われる構図だ。
見せたいもの(被写体)に集中させたいときに効果的である。
【日の丸構図】
「プロの写真家なら日の丸構図はないだろう」
と言われることが多いが、意図した日の丸構図なら、僕は素晴らしい構図だと考えている。
シネマティック写真を撮るときは、被写体を中央に配置してしまうと記念写真っぽさが出てしまうため多用はしないが、あえて『日の丸構図』で撮ることもある。
例えば、こちらの背景にススキが広がる写真。
※写真撮影 : 写真家リョウ
この写真の場合は、背景のススキと手前のボケたススキを強調して、自然の中に迷い込んだ表現をしたかったので『日の丸構図』で撮ったと言うわけである。
このように『黄金比』『三分割構図』『日の丸構図』を使い分けることで、写真の表現の幅もグングン広がってくる。
では最後に、僕がよく言う「心が惹きつけられる写真」について少しお話ししよう。
心が惹きつけられる写真とは
心が惹きつけられる写真とは、その写真を見て行動せずにはいられない写真ということ。
身近なところでいうと、ある飲食店のランチの写真がSNSに投稿されているのを見て、自分も食べたくなって、そのお店のランチを食べに行くような感覚に似ている。
シネマティック写真でいうと、その写真を見てると自分もその場所へ行って恋人と幻想的な写真を撮り合いして、印象に残る思い出をつくりたくなる感覚。
僕は自分が撮る写真については、記録に残す写真ではなく、記憶に残す写真だと考えている。
それについてここで話すと長くなるので、また別の記事で話すとしよう。
話を戻して、僕は心が惹きつけられる写真には次の4つの要素が含まれていると考えている。
・遠くを見るとストーリー性がアップする
・作り笑顔ではなく自然な笑顔を撮る
・フェイスラインの魅力
「ほんのり暗め」に心が惹きつけられる
人物写真を撮る場合、ほとんどの写真家が人物を明るめに撮ることが多いのではないだろうか。だけど僕は、あえてほんのり暗めに撮ることにしている。
その理由は、僕自身が自分の写真を見たときに、ほんのり暗めの方が人間味があって心に響きやすく感じるからだ。
もちろん、明るく撮れば綺麗だし可愛いいし、喜ばれるかもしれない。
だけど、ほんのり暗めの写真は憂鬱な感情が表現しやすく、失敗、不安、寂しい、悲しさのような弱い部分に人らしさを感じるのである(あくまでも僕の主観であるが)。
なぜか成功した人より、失敗した人に人間味を感じて共感や応援をしたくなるもの。
それに、撮られる側の溢れ出た感情をストレートに伝えることもできる。
例えば、こちらの2枚の写真。
※写真撮影 : 写真家リョウ
※写真撮影 : 写真家リョウ
この写真は、モデルを目指すために僕の作品撮りモデルに応募してくれた人で、どんなポージングをすればいいのか悩んでいて、その一瞬の表情を撮った写真だ。
僕はポージングを指示するのがあまり得意ではなく、この時はあえて「自由に」と伝えると憂鬱でいい表情をしていたので撮らせてもらった写真だ。
この写真には「悩み、憂鬱」さがにじみ出ていて、人間らしい部分だと感じている。
人がストーリー性を感じるものに共感する理由は、幸せ、愛情、憂鬱、寂しさなどを感じることで「オキシトシン」というホルモンが増加するからだと言われている。
SNSもインパクトのある写真を投稿するよりも、ストーリー性のある写真を投稿する方が共感されやすくフォローワーにも繋がる。
このストーリー性は、写真だけではなく、文章、歌、SNSの投稿などにも効果的だ。
遠くを見ると、さらにストーリー性がアップする
僕がストーリー性のある写真を撮るのに意識していることは、できるだけカメラ目線にならないようにしてもらうこと。
僕の写真撮影では人物の自然な表情を撮るために、できるだけ自由に動いてもらうようにしている。
撮られる側からすれば、難しい指示だと思う。『自由』ほど難しいものはない。
細かなポージングを指示しないと言っても、「少し横を向いて遠くを見てください」くらいは伝えているので、100%お任せポージングというわけではない。
例えば、下記の写真のように。
※写真撮影 : 写真家リョウ
この写真は、モデルと作品撮りをした時の写真だが、この時の僕の指示がまさに「左を向いて少し遠くを眺めていてください」というものだった。
僕の写真を見るとわかるが、横向きや見上げる写真が多く、笑顔の写真がほとんどない。
僕のシネマティック写真のイメージは、できるだけ人物の自然の表情を撮ること。そのため、シャッターを押す直前はだいたい無口になる。
もちろんシャッターを押さないときは相手と世間話をして和ませるようにしている。
時には自然な笑顔がほしくなることもある。こうして写真撮影をするときは『メリハリ』をつけている。
メリハリがあると撮られる側も緊張がほぐれるし、楽しく撮影してもらえる。
自然な笑顔を撮る
自然な笑顔がほしい時は、相手と会話をしながらシャッターを押す。その方が、自然な笑顔を撮ることができるからだ。
例えば、下記の3枚の写真のように。
世間話をしながら撮ると、とても自然な感じの笑顔を出してもらえて、これもまた映画のワンシーンのような写真になる。
フェイスラインを意識する
そして最後にもう1つ、僕がシネマティック写真を撮影するときに意識していることが『フェイスライン』である。
とくに、人が横を向いた時の顎(アゴ)ラインはとても綺麗で、顎下の影と顔に当たる光のコントラストが芸術的に思える。
女性の場合は、とくに顎(アゴ)のラインが綺麗に撮れるとすごく喜んでもらえるので、必ずアゴラインを強調した写真を数枚撮るようにしている。
言っておくが、決して顎フェチではない。綺麗な顎ラインを撮ることで、相手の撮影のモチベーションが上がるからだ。
顎ラインを綺麗に撮るコツは、気持ち顔が上に向く程度で、半逆光気味で「光と影」をうまく使ってフェイスラインの輪郭をだすこと。
と言っても、夕日が出たときに光の方を向いて少し上を向いてもらえば、上記のような写真を撮ることができるので、そこまで難しいものではない。
最後に
今回は『シネマティック写真の撮り方』についての話をしてきたが、いかがだっただろうか?
僕がシネマティック写真を撮るときに意識していることは、
・カメラ目線より遠くを見てもらう
・時には会話をしながら自然な笑顔を撮る
・顔のフェイスラインを強調する
これを意識するだけでも、シネマティック写真を撮ることができる。
SNSが普及している今の時代、独自性のある写真が求められるだろう。
写真にストーリーを感じることができれば、芸術的な写真作家としての道も開けるだろう。
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